名古屋高等裁判所 昭和25年(う)96号 判決 1950年3月18日
控訴人 被告人 広瀬一司
弁護人 鈴茂只助
検察官 高井麻太郎関与
主文
原判決を破棄する。
本件を岐阜簡易裁判所に差戻す。
理由
被告人並に弁護人鈴茂只助の各控訴趣意は別紙記載の通りである。
先づ職権を以て調査するに起訴状記載の公訴事実中後段の訴因は、被告人が昭和二十四年三月二日頃長野県篠井町に於て、法定の除外事由なきに拘らず査定物品なる木綿裏地四反外六種を査定証紙の貼付又は査定証明書なくして之を販売する目的で所持していたものであるというのであつて、その罰条の記載によつても明らかな如く右は物価統制令第十三条の二の不正取引を目的とする物品を所持する罪の訴因ではなくして物価統制令第十七条により定められた価格査定規則第五条に違反する罪としての訴因なる事は明らかである。而して本件記録を精査するも右訴因に付き何等変更せられた跡はないに拘らず、原判決は原判示後段の如く、被告人が(一)綿製布団生地十五反を一反千四百円位で、(二)背広生地二反を一反六千円位で、(三)同生地二反を一反三千九百円位で、(四)桑繊維裏地二反を一反九百五十円位で各不正に販売する目的で所持して居たものである旨認定し之れが適条として物価統制令第十三条の二第三十五条を掲げているのであつて、右「不正に販売する目的」というのが果して価格統制令第三条、第九条ノ二、第十条、第十二条、第十三条の何れに違反するものであるか明瞭を欠くが、何れにしても「査定証紙の貼付又は査定証明書なしで販売の目的を以て所持して居た」旨の起訴状記載の訴因とは別異の認定をしたものである事が明らかである。元来裁判所は起訴状に記載された訴因事実の範囲内に於て被告人を有罪とすることが出来るのであつて、訴因以外の事実を認定することは許されない。今本件にあつては原判決は起訴状記載の訴因以外の事実を認定したものであつて即ち審判の請求を受けなかつた事件につき審判をした違法がある。而して原判決の法律の適用を見るに原判決は判示臨時物資需給調整法違反の罪と物価統制令違反の罪とを併合罪としたのか又は、観念的競合或いは牽連犯としたのか全く不明であるが何れにしても右の違法により原判決は到底破棄を免れない。故に被告人並に弁護人の各控訴趣意に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第四百条本文に則り主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 杉浦重次 裁判官 若山資雄 裁判官 石塚誠一)